石川 能章教授

理系の知識や知見は強い個性となる

  • プロフィールPROFILE

    1967年生まれ。大学卒業後、一度の転職を経るも一貫して損害保険会社に勤務。
    その間、いくつかのジョブローテーション(地域営業、企業金融営業、企業金融領域の企画・執行・推進、保険商品の企画・開発・運用等)を経験。
    その後、リテール営業店の一つである富山支店の支店長として転出。地域経営の責任者として、営業基盤の強化と将来に向かってこれを支える社員育成に注力。
    2022年より、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社のリテール旗艦店である埼玉支店の地域戦略室長として、支店の業績推進に係る業務と、将来に向けた地域戦略の企画およびその実現化のための執行系業務を担う。
    これと同時に、包括連携協定を締結する埼玉大学との間で交わされたクロスアポイントメント協定に基づき、同大学の教授として着任。テレマティクス、CSV、DX等の実例を素材に、データの利活用を経営の視点で考える講義を設定し、PBLによって学生の課題に対する対応力を高める授業を展開している。

  • 経歴CAREER

    1991年に富士火災海上保険株式会社(現:AIG損害保険株式会社)に入社しました。当時の日本の保険規制の基本的特徴は,銀行同様に「護送船団方式」と表現される市場競争よりも業界の安定を重視するものであり、とりわけ損保では「損害保険料率算定団体に関する法律」により価格カルテルが認められていました。入社した当時は、緩やかに始まっていた金融自由化の流れから、損保は25社が業界に犇めいていたものの、上記政策のもと、商品・料率(保険料)が同一のビジネスであり、各会社の体力差は表面化していませんでした。しかし、日米保険協議を受けた「日本版ビッグバン」の流れで1998年に改定された保険業法によって損保業界は商品・料率自由化に突入し、その後、多くの会社が収益や効率等の観点で合併を繰り返す時代となりました。自由化が始まった当時、商品企画部に所属していた私は、自社の商品の保険料を幾らに定め、如何に有効な商品戦略を打ち出していくのかという課題を目の当たりにし、上記の考え方の整理から他社との比較検証、収益確保を前提とした料率設定等に大変苦労しました。しかし、これを振り返ると、この経験は、データや情報の評価と、これを踏まえたロジカルな考え方の基礎を学ぶ良い機会になったと考えています。

    その後、ご縁があり、2001年に、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社(以下、あいおいニッセイ同和損保)に転職し、企業営業領域の企画・執行・推進、同領域の営業現場のライン長を経験した後、商品部に異動し、再度、保険商品の企画・開発・運用等に従事しました。
    保険業界は、先の保険自由化から凡そ10年で、新たなビジネスやインフラ整備が進みました。一方でこの間、損保各社は特約開発競争や料率割引競争を激化させたことで商品が複雑化し、これに起因する保険金不払い問題が発生するなど、社会的な課題も発現しました。
    私が商品部に着任した2013年当時は、これらを受けた監督行政の姿勢変化の中で保険会社に顧客本位の業務運営が強く求められており、商品戦略も大きく転換しつつある時期でした。この当時にリリースした商品が、現在、損保業界のスタンダードになりつつあるテレマティクス自動車保険です。これは、あいおいニッセイ同和損保が業界に先駆けて、ビッグデータとAI等の最新のデジタル技術の活用によって、お客さまにご負担いただく保険料を最適化するとともに事故低減を仕組みで促す、全く新しい商品作りに挑戦したものです。
    私は、このテレマティクス技術を使った事業者向け商品『ささえるNAVI』の開発責任者として、この商品化に奔走しました。前例のない先進的な商品の企画であったことから、実現化には複雑なマネジメントが必要であり、大変チャレンジングな取組みとなりました。
    この経験を通じて強く実感したのは、社内外の人的資源の活用の重要性であり、とりわけ、「対話と共感に基づく良好なコミュニケーション」の必要性でした。これは、生産性を求めるビジネスの現場で、現在も私の基本姿勢となっています。

    その後、リテール営業店の一つである富山支店の支店長として転出し、地域経営の責任者として、営業基盤の強化と将来に向かってこれを支える社員育成に注力しました。
    ここでも、前記の「対話と共感に基づく良好なコミュニケーション」を基本姿勢に、取引先や社員に寄り添うことを大切にしてきました。
    2022年からは、リテール旗艦店である埼玉支店の地域戦略室長として、支店の業績推進に係る業務と、将来に向けた地域戦略の企画および実現化のための執行系業務を担うとともに、同年8月より、包括連携協定を結ぶ埼玉大学とのクロスアポイントメント協定に基づき、大学院理工学研究科で講義を行っています。

  • 所属会社AFFILIATION

    あいおいニッセイ同和損害保険株式会社は、「先進性」、「多様性」、「地域密着」の3つを企業理念の柱に掲げています。

    「先進性」では、テレマティクス自動車保険のパイオニアとして、『事故のあとの保険から事故を起こさない保険へ』をキャッチコピーに、お客さまの事故発生頻度の低減を目指すとともに、同保険から収集されるビッグデータの利活用を通じて、誰もが安全・安心に暮らせる地域・社会づくりに取り組んでいます。
    また、保険商品だけでなく、「テレマティクス損害サービスシステム」により、万が一の事故に際しての自動通報サービスやAIを活用した先進的な保険金支払いを追求しています(特許取得)。ビッグデータやAIを活用したこの商品・サービスは、CSV×DX(DX〔データやデジタル技術〕によってCSV〔社会との共通価値を創造〕)のもと、保険にイノベーションを起こしています。
    「多様性」においては、トヨタグループ、日本生命及び多数の親密企業とのパートナー関係に加え、大きな顧客基盤を持つプラットフォーマーとの協業や様々なスタートアップとの連携を通じて、デジタル技術を活用した新たな保険ビジネスモデルの構築に挑戦しています。
    「地域密着」では、地方創生に係る様々な支援を通じて、地域の課題解決や社会課題に対する新たな価値創造を進めています。現在、包括連携協定を結ぶ地方公共団体は全国で462、大学は15(2023年2月現在)となっており、順次協定締結先が拡大しています。これらの取組みは、其々がSDGsの目標達成に繋がるものとなっています。

    私が現在所属する埼玉支店地域戦略室は、上記を地域において実現させる推進的な役割を持つ組織であり、とりわけ、地域密着の柱である地方創生関連業務において、官民学連携を深めています。埼玉大学との間でも包括連携協定が締結されており、「SDGsセミナー」の開催やインターンシップの受入れをはじめ、最近では、ビッグデータを交通事故防止に役立てる共同研究も本格化しています。
    展開する講義は、この包括連携協定の中にも掲げられている「キャリア教育支援」に紐づくものであり、理系人財の活躍の場を広げることを目指すものであります。
    あいおいニッセイ同和損保は、「CSV×DX」を通じた保険の新たな価値創造に挑戦することで社会・地域課題の解決に貢献し、お客さま・地域・未来を支えつづけます。

    【あいおいニッセイ同和損保HP】
    https://www.aioinissaydowa.co.jp/ 

  • 現在行っている授業についてLECTURE

    デジタル技術の急速な進歩を受けた経済・社会の大きな変化を背景に、消費者ニーズは多様化し、また消費行動の変化も加速しています、また、世界的な潮流であるSDGsのスタンダード化の流れを受け、ビジネス環境やそのモデルも大きく変化しています。
    講義は、テレマティクスやDX、データドリブン等のデータ利活用に通じる領域で先行する企業や、SDGsに最適対応している企業からも講師を招き、各領域における社会課題解決の取組みの実例を基にした「これからの企業経営の在り方」に係る授業を対面形式で行っています。

    講義では、企業の実務における課題解決テーマを素材に、「これからの社会課題解決の方向」とこれを実現化する「最先端の技術や方法」に触れるとともに、グループワークにおいて双方向の論議を行います。
    特にこのワークにおいては、「正解は一つではない」とのスタンスのもと、学生から自由な発想と意見を求めています。私は、自由な論議を通じて学生が自身の考え方の癖や偏りに気付くことが、組織での自分自身の活かし方を考える起点になるとともに、実際に社会に出た際に役立つ課題対応の力となると考えています。
    学生には、上記のやり取りを通じて自身の専門性が実際のビジネスに如何に繋がるかをイメージしてもらい、これを一つのきっかけに、学びを深めることの意義を再認識するとともに、その意欲を更に高めてもらうことを期待しています。

    また、この工程の中で、プレゼンテーションやコミュニケーションの力も養っていただけると良いと思っています。
    私自身は、論議が活性化するよう、また、主役の学生一人ひとりが臆することなくアウトプットできるようにサポートすることを意識して授業を進めています。
    講義は全ての回で、実社会に出た際に即活躍できる知恵を持ち帰ってもらうことを念頭に置いて進めていますが、とりわけ、企業で活躍する若手理系人財の生の声を聞く回においては、私自身のこれまでのキャリアにおける経験とキャリアコンサルタントとしての視点で、学生が各々の価値観や職業観を踏まえた柔軟な職業・企業選択を進めてもらうための支援もしていたいと考えています。

  • 学生に一言MESSAGE

    ニューノーマルの時代と言われる今、私たちを取り巻く社会や環境は大きく変化しています。またこれに呼応して、企業においては、先進的な経営手法・戦略を積極展開することによって最適に社会課題を解決することが、マーケットにおける競争力の強化、ひいては企業価値の向上に直結するものとなっています。これを実現するための要素は、データや最先端のデジタル技術の活用であることは言うまでもありません。しかし、最も重要な要素は「人」だと考えます。ビジネスの現場では、リモート等の定着化によって人との関わり方が変化していますが、関わり自体が無くなることはありません。実務の現場では、社員一人ひとりの「個性」を融合させながら最大効果を追求します。この融合は、性別や入社年次、ましてや「文系」も「理系」も関係ありません。皆さんは、理系の高度な知識と研究に基づく深い知見を持っており、これは業界や分野を超えて活かせる「独自の個性」です。是非この個性を柔軟に活用いただき、価値ある創造を起こして欲しいと思います。

    上記のとおり、組織は様々な個性ある「人」で成り立っており、「人」はまさに経営資源として重要な位置付けにあると考えます。本講義では、実際の仕事の場面でも日常的に行われる課題解決のための論議を体感することで解決のためのアプローチの視点を学び、自らの「個性」を活かした発信力を高めるとともに、他者の考えを訊くことを通じて視野を広げて欲しいと考えています。授業の内容は、主に一般的に文系の業種と思われている損害保険会社の社会課題解決の実例から学ぶものですが、受講を通じて、保険という社会インフラが高度な理系技術に支えられていることに気付くと思います。理系技術が多方面で社会に結び付いているという気付きを今後の職業選択の一助にしていただいても良いと思います。

    最後に、昨今、リカレント教育やリスキリングといった学び直しが注目されるとともに、その機会も増えてきました。しかしながら、一企業人の日常に占めるビジネス時間ウェイトは相対的に大きく、腰を据えて学ぶことは容易ではありません。その意味で、アカデミックなことをしっかりと学べる学生の時間は大変意味のあるものです。是非この時間を大切に自身の知識や見識を広めることに使っていただきたいと思います。また、実業から学ぶ本講義を通じて実社会を感じるとともに未来の自分をイメージすることで、これからの学びを実践的に構えてもらえると嬉しいと思います。

実務家教員紹介

様々な分野で経験を積んできた実務家教員が、 将来社会人になる学生に役立つ知識や技能を伝えます