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埼玉大学主催 国際シンポジウムを開催しました

2021/4/7

新型コロナウィルスの流行によるパンデミック下およびパンデミック後の世界(パンデミック時代)における様々な学術知の意義を再考し、その開放性や信頼性をどう高めるのかという課題に応えるため、埼玉大学では『パンデミック時代におけるアート・ミュージアム・インタラクション』(3月26日)、『パンデミック時代における科学技術と想像力』(3月27日、28日)の2つの国際シンポジウム(日英同時通訳付き)をオンラインによるウェブセミナー形式で開催しました。

3月26日は参加者131名、内世界4カ国(イギリス、シンガポール、フランス、カナダ)からの海外参加者15名、27日は参加者135名、海外参加者9名、28日は参加者154名、海外参加者9名、延べ420名(登録者実数226名)が参加しました。

3月26日 『パンデミック時代におけるアート・ミュージアム・インタラクション』

3月26日の『パンデミック時代におけるアート・ミュージアム・インタラクション』では、日本を代表する芸術家、芸術論研究者、日本伝統芸能研究者、ミュージアムでの鑑賞を研究する社会科学者、ミュージアムでの鑑賞支援を研究する工学者、学芸員と、イギリス(ロンドン大学キングス・カレッジ)およびフランス(ルーブル美術館)でミュージアムでの鑑賞の問題を研究する研究者が集まりパンデミック時代におけるアートとミュージアムについてのグローバルな議論を行いました。

第1部「観客と共創する芸術」

第1部の「観客と共創する芸術」では、総合司会の山崎敬一氏によるプロジェクト紹介、市橋秀夫埼玉大学副学長の挨拶の後、日本学術振興会課題設定による人文学・社会科学振興事業「観客と共創する芸術」を中心として行われた様々な研究プロジェクトの報告が行われました。まず、加藤有希子氏、井口壽乃氏、陳海茵氏による「アイトラッカーからみる臨場感 インタラクティヴ・アート鑑賞実験」の研究発表では、作品が展示されている現場で鑑賞することと、遠隔地でノートPCを用いて鑑賞することの比較実験を通じて、視線の動き方の違いや作品の受け止め方の違いを考察しました。

続いて、児玉幸子氏、ビュールク・トーヴェ氏、小林貴訓氏による「インターネットを介した芸術鑑賞:ニューメディアアートで演出された劇の遠隔鑑賞実験を中心に」の発表では、埼玉県の酒蔵で行われたメディアアートを取り入れた現代劇『新竹取物語』の上映プロジェクトの成果が発表されました。観客の参与によって舞台やアート作品が即興的に作り上げられていく様子によって、観客と共創する芸術の将来的な研究素材となることが示唆されました。山崎晶子氏・山崎敬一氏による「移動と鑑賞」の研究発表では、カナダのパウエルストリートの街歩きを事例に、現地ガイドと観光客が街歩きを通じて時間と空間を組織化し、「歩くこと」と「観ること」を集団的に達成させていることをエスノメソドロジーの観点から論じました。荒野侑甫氏による「リクルーティド・ガイディング」の研究発表では、展示室のなかでガイド(学芸員)がどのように鑑賞者の鑑賞行為に関与し、ガイダンスを与えているのかについてエスノメソドロジーの観点から考察が行われました。

第2部「アート・ミュージアム・インタラクション」

第2部の「アート・ミュージアム・インタラクション」では、まず、ロンドン大学キングスカレッジのダーク・フォン・レーン氏から「Experiencing Art in Interaction」の研究発表が行われました。この発表では、ロンドンのナショナル・ギャラリー、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、ロイヤル・アカデミー・オブ・アートにおける人々の鑑賞行動のビデオ録画データに基づき、人々が芸術作品や文化作品にどのように接近し、観察し、学芸員が提供するラベルのような情報源をどのように利用するかを明らかにしました。

続いて、ルーヴル美術館研究部のマティアス・ブラン氏から「Visitors' Interaction in Museum and Augmented Reality : the Ikonikat 3D Experience at the Louvre Lens Museum」の発表がなされました。この発表では、ルーヴル美術館においてiPadのようなデバイスを鑑賞者に持たせて鑑賞をしてもらうなどの実証実験の成果について考察が行われました。また、アイトラッカーを使用した実験における専門家と素人の視線や鑑賞方法の違いについても分析されました。

最後に、国立民族学博物館の広瀬浩二郎氏が、コロナ禍によって「触ること」に対する人々の心理的な変化を中心に、「触の大展覧会」という「触ること」を前提とした展示のあり方とその意義について発表されました。最後の総合討論では、パンデミック時代における美術館や展示施設の直面する課題やその突破口について、議論が行われ、展示の現場でアートを観ること、誰かと一緒にアートを観ること、そして、デジタルデバイスを通してアートを観ることが、今後それぞれどのように共存しながら棲み分けられていくのかについて、将来的な共同研究で明らかにしていきたいという方向性が示されました。

3月27日、28日 『パンデミック時代における科学技術と想像力』


挨拶をする坂井学長

3月27日、28日の『パンデミック時代における科学技術と想像力』では、科学技術と想像力の問題で現代を代表する作家・文学者、人文・社会科学者、科学政策・教育の実践者、情報工学者が集まり、「パンデミック時代における科学技術がもたらす協働と分断化」「パンデミック後の知能と社会」の2つのテーマで、世界共通のパンデミック時代の課題について議論を行いました。

3月27日の会は重原孝臣埼玉大学理事の開会挨拶のあと、「第1部プレナリーセッション1 科学技術と想像力」、「第2部パンデミック時代における科学技術がもたらす協働と分断化」の2つのテーマで開催されました。

3月28日の会は、坂井貴文埼玉大学学長の挨拶のあと、「第3部プレナリーセッション2 科学技術と想像力」、「第4部 パンデミック後の知能と社会時代における科学技術がもたらす協働と分断化」の2つのテーマで開催されました。

第1部 プレナリーセッション 科学技術と想像力

第1部は、作家の長谷敏司氏、一田和樹氏を基調講演者にお招きして開催されました。長谷氏には「巨大リスクと生活の想像力」というタイトルで、新型コロナウィルスのパンデミックがより深刻化した経済的強者と弱者の間の不均衡について、そしてこれからの「イノベーション」によってこの構造的問題が悪化する可能性について、そして現状をポジティブな未来につなげるかためのアイディアについてお話いただきました。

一田氏には 「民主主義のゼロデイ脆弱性」というタイトルで、国家がインターネットを世論操作や軍事に利用している現状をご報告いただき、問題の源泉が民主主義の理念と実装の乖離という「ゼロデイ脆弱性」にあり、今後は民主主義の理念にあった実装が必要であるというご提案をいただきました。各基調講演の後には講演者と、パネリスト・オーディエンスとの間で活発に質疑応答が行われました。

第2部 パンデミック時代における科学技術がもたらす協働と分断化

第2部では、「パンデミック時代における科学技術がもたらす協働と分断化」というタイトルで、経済学者の井上智洋氏、金井郁氏によるご提題の後、第1部の基調講演者他のパネリストを加えて全体討論を行いました。井上氏には「人工知能と雇用の未来」というタイトルで、人工知能によってもたらされる経済的影響、特にテクノロジー失業の見通しと、その対策としてのベーシックインカムについてお話をいただきました。金井氏の報告では、日本型生命保険と外資型生命保険の違い、そこで働く人々のジェンダー、年齢、経歴などの分析、また、コロナのもとでの生保業界の営業の変化について、様々な新しい知見が提示されました。

全体討論では、ベーシックインカムの有効性、各国のコロナ対策についての評価、多様な価値を認めていくことの重要性などから、作家の一田氏、長谷氏が作品に込めた思いなど、多岐にわたって活発な議論が行われました。

第3部 プレナリーセッション 科学技術と想像力

第3部は「科学技術と想像力」と題し、二人の文学者にご登壇いただきました。お一人はロシア・中欧文学の研究・翻訳で著名であり、文芸批評家としても活躍されている沼野充義氏。もうお一人は、中国SFの紹介に多大な貢献を行うとともにご自身も人気作家である立原透耶氏です。

沼野氏は「空想する文学と世界終末のヴィジョン:ロシア・東欧作家たちは危機とどう向き合ってきたか」という題で、ドストエフスキー『罪と罰』に始まるロシア・中欧文学の「疫病と終末」の主題についてお話されました。

立原氏は、近年、世界的に注目を集める中国SFに関して、学校教育でもSF小説が教材として用いられている現状を、「SFの教科書」を資料に報告されました。SF人気は高く、パネリストはもちろん、一般視聴者から多くの質問が出ましたが、両氏の穏やかでウィットに富む応答のおかげで、対話性に富むパネルとなりました。

第4部 パンデミック後の知能と社会

第4部では「パンデミック後の知能と社会時代における科学技術がもたらす協働と分断化」というタイトルで、認知科学者の安西祐一郎氏、HCI研究者の暦本純一氏、論理学者の村上祐子氏に登壇いただき、日本の科学技術の今後の発展において重点を置くべき課題と、SFがもたらすビジョンの重要性が議論されました。

安西氏の講演では、「共感の認識論」という表題でSFに描かれた技術発達の影響と、今後の社会において、人類が持つ共感・感情技術の発達を描写することへの重要性が語られました。暦本氏は「Augmented Society:人間拡張がつくる未来社会」という表題で、SFに描かれてきた人間拡張、知覚書換、遠隔体験などの技術が現在どこまで実装されており、どのように人の認識を書き換えうるか、が議論されました。村上氏は「誰も取り残さない社会に備える情報教育」という表題で、情報技術がもはや私企業の管理範疇ではなく公共性のあるインフラであり、女性やマイノリティがアクセスできない問題やエコーチェンバーの回避などが、人間の尊厳を保つかたちで社会に実装されなければならない、という議論が行われました。

また、講演後のパネルトークでは、第3部に登壇した立原透耶氏、第1部、2部に登壇した作家の長谷敏司氏、一田和樹氏、名古屋大学の哲学者である戸田山和久氏を交え、未来社会の教育環境の重要性、フィクションが今後の社会ビジョンに貢献する期待と課題が、各国の状況を交えて議論され、共有されました。

最後に、川合真紀埼玉大学副学長の閉会挨拶でもって、シンポジウムは盛況のうちに終了しました。
登壇者の先生、司会者の先生、また様々な質問を投げかけていただいた聴衆の皆様に、深く感謝いたします。

●国際シンポジウム総合司会・進行役 山崎敬一(埼玉大学)

●「パンデミック時代におけるアート・ミュージアム・インタラクション」運営委員会
 (山崎敬一・埼玉大学、井口壽乃・埼玉大学、加藤有希子・埼玉大学、陳海茵・埼玉大学、長谷川紫穂・埼玉大学)

●「パンデミック時代における科学技術と想像力」運営委員会
 (山崎敬一・埼玉大学、野中進・埼玉大学、小林亜子・埼玉大学、大澤博隆・筑波大学、久木田水生・名古屋大学)