17 白井 肇 新規物性原理に基づいた高効率太陽電池開拓
社会、経済、産業、技術、エネルギー、化学、科学
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白井 肇

大学院理工学研究科 物質科学部門
教授

経 歴
昭和63年3月 東京工業大学大学院総合理工学研究科材料科学専攻
           修士・博士課程修了
昭和63年4月 東京工業大学大学院総合理工学研究科助手
         (平成4-5年 仏エコールポリテクニク大学客員研究員)
平成 6年4月 埼玉大学工学部機能材料工学科・助教授(准教授)
平成19年4月から現職

専門
太陽電池・薄膜トランジスターを中心とした大面積電子デバイス用電子材料工学

高性能、軽量・フレキシブル、低価格の、三拍子そろった太陽電池を研究。

〜ナノ・マイクロ構造を使って太陽光を集める〜


 太陽電池や液晶ディスプレイ駆動用薄膜トランジスター(TFT-LCD)は、LSIのような微細加工・集積化を主体とした半導体デバイスとは正反対に、メーター級のサイズで駆動させる大面積電子デバイス(Giant Microelectronics)に分類され、今や液晶ディスプレイは携帯電話、薄型テレビ等のディスプレイなど10兆円を超える産業分野に成長しています。
 一方最近では、再生エネルギー戦略の有力な候補として太陽光発電が注目されていることから、電力用太陽電池に強い関心が寄せられています。これらの電子デバイスに共通する基盤材料として半導体シリコン(Si)や化合物半導体などの無機材料が広く利用されてきました。現有の電力用太陽電池の大部分は結晶Siシリコン(c-Si)を基盤材料として変換効率22〜23%が達成されています。		
			
 今後の課題は、ポストSiにつながる新規光電変換材料・プロセス技術の開発と波長変換、量子効果、フォトニック結晶などの新規物性原理に基づいた太陽電池の高効率化が挙げられます。同時に高性能、軽量・フレキシブル、低価格の3拍子揃ったデバイスであることが必須となっています。私建の研究室では、こうした背景から薄膜・バルクSiを基盤材料として、
(1)ポストSiとして可能性のある新規半導体薄膜のプラズマCVD
(2)有機・導電性高分子、グラファイトシート1層から構成されたグラフェン、カーボンナノチューブ、ナノワイヤー、原子膜の作成技術の開発とTFT、太陽電池応用
(3)薄膜・バルク結晶Si/有機ハイブリッド構造太陽電池の開発
(4)機能性薄膜の基板からの剥離・転写技術を中心に化学を基盤としたデバイス応用
を目標に研究を進めています。

PROCESS


1.材料開発
薄膜・バルクSi
化合物半導体
グラフェン
酸化グラフェン(GO)
CNT
高分子
Agナノワイヤー
		
2.プロセス開発
プラズマCVD
スパッタ法
霧化塗布法
剥離・転写
堆積している反応場のその場診断・解析
		
4.デバイス応用		
・薄膜トランジスター
・太陽電池を中心とした大面積電子デバイス

3.基礎物性の理解と制御
電子構造、光・キャリア(電子・正孔)の輸送特性制御

■ 炭素系・金属・シリコンから作られたナノ・マイクロ構造

炭素系・金属ナノ・マイクロ構造

カーボンナノチューブ 酸化グラフェンシート 銀ナノワイヤー

■ c-Siと導電性PEDOT:PSSヘテロ接合太陽電池の光電流‐電圧特性


 導電性高分子PEDOT:PSSをc-Si上に塗布した接合太陽電池で変換効率11%を達成しました。しかしc-Si系太陽電池の変換効率には及ばない。より一層の高効率化を目指してSi表面の欠陥被覆,接合プロセス,導電性高分子の改質による効果を多角的に評価と解析を行っている。

▲ c-Si/有機系太陽電池特性


■ 薄膜作成時の初期過程・界面形成過程の実時間その場診断による診断と制御


新規な高分子・微粒子製膜装置として霧化塗布装置を開発し、導電性高分子、グラフェンを単分子層レベルからの膜厚制御を行っている。成膜時の気相反応の高速カメラによる観察、偏光解析による光学定数スペクトルの実時間計測を通して前駆体の飛来・付着過程を解析している。

 ▲ 霧の基板上への飛来状態の条件に対する変化

 ▲ 霧化塗布法装置概略


 ▲ 偏光解析による製膜過程のその場診断の一例:
     屈折率・消衰係数スペクトルの塗布時間変化

Si凹凸基板上の霧化塗布法による均一製膜形態

Siピラミッド表面に均一に導電性高分子が一様に塗布されていることを示す

霧化塗布法


■ 酸化グラフェン薄片をテンプレートに利用した
  薄膜Si, ZnO:Al透明導電膜の剥離・転写


一般にCVD等で高品質結晶膜の作成では500℃以上の基板温度を必要とする。一方ポリイミド等のフレキシブル基板では耐熱性は200℃に満たないため直接成長は困難である。そこで耐熱性基板上に成長させた高機能性薄膜をフィルム上に転写する技術として,GOをテンプレートに用いた剥離・転写技術を開発した。

 ▲ 酸化グラフェンをテンプレートにした機能性薄膜の剥離・転写技術

研究者一覧