野瀬 清喜 日本伝統文化としての柔道と国際競技力の向上の研究
社会、文化、教育、技術
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野瀬 清喜

教育学部 保健体育講座
教授

経 歴
1976年 東京教育大学卒業
1978年 筑波大学大学院修士課程修了
1882年 埼玉大学教育学部講師 助教授を経て2002年〜教授
1996年 東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科併任(主指導教員)

著 書
『女子柔道論』(共著)、創文企画2006年
『中学校体育・スポーツ指導法講座動画解説書:武道・柔道』ニチブン、2008年
『柔道学のみかた』文化工房、2008年
『ステップアップ中学体育』(共著)大修館書店、2009年
『ビジュアル新しい体育実技』(共著)東京書籍、2011年
『中学校保健体育・体育編武道1柔道』東京書籍、2012年
『投げ技の安全指導のポイント』
 東京書籍、2012年
『ステップアップ高校体育』(共著)
 大修館書店、2013年
『柔道の安全な学び方』東京書籍、2013年
『柔道指導の手引(三訂版)』(共著)
 文部科学省、2013年発刊予定

武道必修化によって子どもたちに何を伝えていくか

〜我が国の伝統文化を理解し国際社会で活躍する人材の育成を目指して〜


 体育・スポーツの専門家を養成する大学で10年間学び、1982年に埼玉大学に着任しました。教員養成の専門機関に戸惑いながら、「自分の子どもを安心して任せられる教員づくり」を目標に活動を始めました。
 当時、もうひとつの悩みは柔道競技を続けるか否かでした。学生指導の原点は「自分が率先垂範すること」という思いで継続を決意し、翌年の世界選手権3位、1884年アジア選手権優勝、全日本5連覇などの成績をあげ、着任3年目でロス五輪に出場(銅メダル)することができました。
		
 それから30年間、研究室、授業、朝晩のトレーニング、稽古と多くの時間を講座の学生、他学部の柔道部員たちと共に過ごしてきました。この実技現場で積み重ねた時間が研究に大きく役立っています。2012年4月から新学習指導要領が完全実施され武道の必修化が始まりました。10年後に社会に巣立ち国際社会で活躍していく若者達に武道の学習を通じて何を学んでもらうか。日本人の生活に根付く「礼の精神」や「間と気」、困難な事態に「一歩踏み出す勇気」など、伝統的な考え方や行動の仕方を分かりやすく伝えていくのが課題です。

PROCESS


1.研究の出発点
実技時間数の多い体育系大学と専門分野で渡り合っていくには高い技能が必要とされる。その絶対的な時間数の確保が必要である。教員養成学部で授業数や実習が多いからできないというのは言い訳でしかない。限られた時間を有効に使い文武両道を目指す。

2.短所を長所に変える
限られた施設・予算で私学に挑戦するには発想の転換が必要。
20名で200名の組織に挑むには、学生が活き活きと活動に取り組み、苦難を楽しみながら、自ら考え自ら行動する環境が必要となる。

3.柔道の国際化と競技力向上の研究
アメリカ・ギリシャ・オランダ・オーストラリア・中国・韓国ナショナルチームとの交流。海外チームに認めてもらい、受け入れてもらうには高い競技力が要求される。
これらの交流の中でナショナルトレーニングセンター・総合型地域スポーツクラブのなどの視察を行い、スポーツと文化を学ぶ体験をする。

4.武道必修化と柔道の安全指導
現在、研究の中核は武道必修化の教材づくりと柔道授業の安全指導である。大学院生、ゼミ学生と資料作成の立案、撮影、編集を行い、撮影ではモデルを務めてもらう。
基礎基本的な学習資料ほど高い技能が要求され、正しい動きを見る眼も必要となる。

5.今後の課題
武道の本質や教育的価値の検討。ゼミや柔道部を巣立った120名を超える教員たちと連携した実践的研究も課題。
武士道の基礎となった論語、孟子などの中国古典、新渡戸稲造の著書から、次の世代を支える若者たちに伝える武道の伝統文化を抽出していきたい。

1. 畳の上では私立も国立もない

▲ 明るく自主的な活動の中で創造力を養い世界を目指す。


教員養成学部で授業数や実習が多いから勝てない。
これは言い訳でしかない。
負けた時の言い訳を考える学生は強くならない。
自分の短所を戦力にするようになれば世界と戦える。
朝のトレーニングは週4回7:30〜8:30、稽古は週6回16:30〜19:00。

▲ 技を作る過程は刀を磨く作業に似ている。心を込めて何百回も繰り返し型を作り上げていく。

2. 自分にしかできない技の開発


1992年バルセロナ五輪では教育学部3年生の溝口紀子が銀メダルを獲得。
学生王者通産22名、世界選手権、アジア大会、ユニバーシアード入賞者7名を輩出。
これらの卒業生のほとんどが教育現場で活躍、
全日本コーチや国体監督をつとめている。

3. 課外活動と人材育成


厳しい練習環境の中で大学教員5名・博士取得者4名・
国際柔道審判員2名・公認会計士などの資格者が育った。
現在の活動の場は武道や柔道ではない者も多く、
埼玉大学という組織自体が持つ教育力と体験知が
学生たちを育ててくれたと感謝している。

▲ ギリシャ合宿(2002年) ▲ 教育学部ニューズレターでも掲載されました。
▲ 大辻選手・金子選手の全日本学生柔道優勝

教育学部(ニューズレター) URL:http://www.edu.saitama-u.ac.jp/news/2012-1126-1223-10.html

4. ゼミ・課外活動は卒業生と大学とをつなぐ橋


両者の究極の目的は人材育成であるが、
ゼミも課外活動も大学と卒業生のつなぐ橋のようなものだと考えている。
社会に出た後、困難なことや逆境に陥った時は、
自分が4年間情熱を傾けた大学に顔を出し、
後輩たちのエネルギーを吸収して欲しい。
退職すればゼミはなくなるが、課外活動は永遠に続くことを願っている。

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