三浦 勝清 ケイ素を利用した有機合成反応の開発
産業、農漁、食品、医療、技術、エネルギー、環境、資源、化学、科学
  PROFILE 研究者総覧 Researcher ID
三浦 勝清
大学院理工学研究科 物質科学部門

経 歴
1993年3月 京都大学大学院工学研究科工業化学専攻博士後期課程修了
        京都大学博士(工学)
1993年4月 筑波大学助手(化学系)
1997年6月 筑波大学講師(化学系)
1998年5月 米国カリフォルニア工科大学博士研究員(文部省在外研究員)
2004年4月 筑波大学大学院数理物質科学研究科助教授
2007年4月 筑波大学大学院数理物質科学研究科准教授
2008年10月より現職

著 書
1. "Silicon in Organic Synthesis" in Main Group Metals in Organic  Synthesis ed.
   by H. Yamamoto and K. Oshima, Wiley-VCH, Weinheim, Germany, Vol. 2, 
   Chap. 10 pp 409-592 (2004).
2. "Silicon" in Comprehensive Organometallic Chemistry III ed. by R. H. Crabtree
   and M. P. Mingos, Elsevier, Amsterdam, Vol. 9, Chap. 7, pp 297-339 (2007).
3. "Silicon Lewis Acids" in New Acid Catalysis in Modern Organic  Synthesis ed. 
   by H. Yamamoto and K. Ishihara, Wiley-VCH, Weinheim,  Germany, Vol. 1, 
   Chap. 9, pp 469-516 (2008).

地球上に豊富に存在するケイ素を利用して炭素-炭素結合をつくる

〜効率的かつ環境負荷が少ない有機合成のために新しい反応を提供する〜


 有機化合物は主に炭素(C)や水素(H)などからなる分子で、有機化合物を人工的につくり出すことを有機合成と言います。現在、この有機合成により、合成繊維、合成樹脂、医農薬品、食品添加物などの人工有機化合物が製造され、人々の生活に幅広く役立っています。有機合成に必要不可欠なものが、分子変換を担う「反応」であり、私たちの研究室では、有機合成に役立つ新しい反応の開発を行っています。特に炭素骨格の構築に重要な炭素-炭素結合をつくる反応について研究しています。
 有機合成に限らず、ものづくりに重要なのは、入手容易な原料から、欲しいもの		
		
を如何に効率良く、環境に優しくつくるかということです。そこで、新しい有機合成反応を開発するに当たって私たちが目をつけたのは、地球上に豊富に存在するケイ素(Si)です。ケイ素は周期表では炭素のすぐ下に位置する元素で、炭素、酸素、水素などと比較的安定な結合をつくります。ケイ素-炭素結合を有する化合物は有機ケイ素化合物と呼ばれ、機能性材料として有用なシリコーン(有機ケイ素高分子)の製造のために大量に生産され、容易に入手できます。
 私たちは、この有機ケイ素化合物に細工を加えて反応性を高め、炭素-炭素結合をつくりだす反応剤として利用することで、新しい反応の開発を行っています。

PROCESS


これまでの知見や文献情報、ひらめきに基づいて新しい反応を設計する。あるいは、実験中に予想外の反応を偶然に発見する。論理的な思考能力と偶然を見逃さない観察力(Serendipity)が必要。		
		
設計した反応、発見した反応を効率良く進行させるために、反応条件
(触媒、溶媒、温度、時間、濃度など)や反応操作を変えてひたすら実験。試行錯誤の日々。「為せば成る」の強い意志と忍耐力が必要。		
		
学会や論文により研究成果を公表し、自分の研究をアピールするとともに、他の研究者の意見を聞いて、今後の研究に役立てる。プレゼンテーション能力、文章構成力、コミュニケーション能力が必要。

様々な原料に対する反応を行い、反応の適用範囲を調査する。適用範囲が広く、使いやすい反応を目指して、反応条件と反応操作を改善する。反応の実用性を追求する。新物質や新反応の発見にもつながる。

有機化学の基本原理や文献情報に基づいて、反応がどのような中間体、どのような素反応を経て進行するか考察し、その裏付けをとる。反応の学術的な面白さを追求する。新たな研究の発想にもつながる。

1. 反応開発の意義


▲ 新反応の開発は、合成コストの削減や省エネルギー、環境への貢献、さらには資源問題の解決、新物質創出などに大きく寄与しています。

 新反応の開発は様々な意義を持っています。例えば、欲しいものだけを効率良く与える反応や、少ないエネルギーや労力でも進行する反応の開発は、合成コストの削減や省エネルギーにつながります。有害な原料を使ったり、有害な廃棄物を出したりしない反応は、環境に調和した有機合成に役立ちます。また、二酸化炭素のような、ありふれた炭素資源を有用な有機化合物に変える反応を開発できれば、日本が抱える資源問題を解決することができます。さらに、新反応は有用な新物質を生み出す原動力になり、反応開発で得られる化学的知見は、より高度な有機合成を支える礎になります。

2. 有機合成反応

 有機合成に利用される反応は数多く知られていますが、おおよそ3つのグループに分けることができます。

1.炭素-炭素結合形成

1つめは炭素-炭素結合形成反応、つまり、炭素と炭素をつなぐ反応で、有機化合物の骨格となる炭素鎖をつくります。

2.官能基の導入と変換


2つめは官能基の導入あるいは変換を行う反応です。官能基とは分子の性質を決める原子あるいは原子団のことで、有用有機化合物の多くは複数の官能基を持っています。また、官能基は、炭素ー炭素結合形成反応を効率良く、選択的に行うために必要不可欠なものです。

3.官能基の保護と脱保護


3つめは官能基の保護と脱保護の反応です。反応して欲しくない官能基を保護基と呼ばれる原子団で一旦保護します。分子の別の部分で反応を行った後、保護基を外して(脱保護)、もとの官能基に戻します。官能基を多く持った複雑な有機化合物の合成には、非常に重要な反応です。有機ケイ素化合物はいずれの反応にも有用ですが、特に官能基の保護には頻繁に利用されています。

▲ 有機合成反応の種類

3. ケイ素と有機ケイ素化合物


 ケイ素は、地球の地殻上では、酸素に次いで多く存在する元素です。自然界では、岩石、砂、土など主成分である二酸化ケイ素やケイ酸塩として存在しています。単体のケイ素は暗灰色で金属光沢があり、自然界には存在しません。二酸化ケイ素を炭素(コークス) で還元することで生産されています。純度を高めたケイ素単体は集積回路や太陽電池に利用されています。有機ケイ素化合物も自然界には存在せず、ケイ素単体と有機化合物との反応により生産されています。主に、シリコーンと呼ばれる有機ケイ素高分子の原料として利用されています。シリコーンはオイル、ゴム、樹脂などの形態 をもち、機能性材料として私たちの生活に役立っています。

4. 有機ケイ素反応剤の特長

▲ 有機ケイ素反応剤の特長 
 有機ケイ素反応剤(有機合成に利用する有機ケイ素化合物)は、ケイ素-炭素(Si-C)結合の安定性に由来して、その合成と保存、取り扱いが容易です。ケイ素は地球上に豊富に存在し、有機ケイ素化合物は工業原料として大量に生産されているため、容易に入手することができます。また、穏和な反応性を有するため、触媒や添加剤などにより反応性を細かく制御することができ、副反応を抑え、効率的反応が可能になります。さらに、低毒性であり、反応による環境負荷を少なくできます。これらの特長から、有機ケイ素反応剤を利用する反応は、より複雑化する有機合成にも有用であり、創薬や有機分子材料の開発に大いに貢献できると考えています。
ケイ素単体

地球上に豊富に存在し、
とても身近な元素「ケイ素」。
「ケイ素」の有効利用が、
これからの社会に大きな
付加価値を産んでくれる
でしょう!
研究者一覧