研究紹介 応用化学科

有機塩型超分子キラルホストを用いたニトリル類の光学分割

廣瀬・小玉研究室 Y・S 

 不斉炭素原子を有する化合物には右手と左手のように、互いに鏡像の関係にある(+)体と(-)体の一対の異性体(エナンチオマー)が存在します。エナンチオマー同士は物理的、化学的性質が同じで、生理活性は異なる場合があります。生理活性とは生体に投与されたときに示す作用のことです。例えば、医薬品に使われる(+)-サリドマイドは睡眠薬として用いられますが、そのエナンチオマーである(-)-サリドマイドは催奇性を持ち、人体に悪影響を及ぼします。よって、一方のエナンチオマーを得ることは医薬品等の分野で重要です。

 私たちの研究室では、エナンチオマーの等量混合物(ラセミ体)から一方のエナンチオマーのみを取り出す研究をしています。これを光学分割と呼びます。私は、天然アミノ酸から誘導した超分子キラルホストを用いることで、ラセミ体のニトリル類から一方のエナンチオマーを単離する研究をしています。天然アミノ酸は単一のエナンチオマーであるため、そのネットワーク内にニトリルの一方のエナンチオマーのみを包接することにより光学分割することができます。ニトリルは医薬品の中間体となり得る重要な物質ですが、安価にうまく光学分割する方法は他に知られていません。そのため、光学分割できるニトリルの範囲を拡大できれば、非常に有用な技術になると考えています。

トロンビン-DNAアプタマー三元錯体形成を利用した電気泳動法による結合部位判別法

渋川・齋藤研究室 S・M 

 DNAは二重螺旋構造が有名ですが,一本鎖のDNAの中にはタンパク質や細胞などの様々な物質に対して特異的に結合するDNAがあり,これをDNAアプタマーと呼びます. DNAアプタマーは分子内結合により特殊な立体構造をつくり,抗体(タンパク質)と同様に「鍵と鍵穴の関係」で物質を特異的に認識できることが知られています.また,近年アプタマーは,抗体に代わる生体物質として医薬品への応用が期待されています.しかし,アプタマーを実用化する上で,抗体よりも結合能が低いという大きな課題があります.

 私は卒業研究で,異なる結合部位に結合する2種類のアプタマーを組み合わせることでアプタマーと目的タンパク質の結合能を向上させる方法に着目しました.しかし,その前にアプタマーがタンパク質に結合する部位の相違を判別する必要があります.そこで,目的タンパク質(トロンビン:血液の凝固反応を制御)と2種類のアプタマーの混合溶液をキャピラリー電気泳動法(CE:試料を注入した細い管に高電圧を与えて,物質をサイズと電荷の比に基づいて分離検出する電気泳動法)で分離検出し,得られた化学種ピークの本数から結合部位を判断できる方法を開発しました.この時,2種類のアプタマーの結合部位が同じ場合は,それぞれのアプタマーがトロンビンと複合体を形成するので,トロンビンに結合していない遊離アプタマーと合わせて3本のピークが検出されます(図1(a)).一方で,結合部位が異なる場合には,トロンビン1分子に対して2種類のアプタマーが同時に結合した三元錯体を形成するので,4本目のピークが検出されます(図1(b)).さらにこのピークの面積からどれくらいの強さで結合できるかという熱力学的定数(解離定数)を測定できます.このようにしてピークの本数や検出パターンから結合部位の相違を簡便・迅速に判別でき,本法を用いることで11種類のアプタマーの結合部位の判別に成功しました.卒業後に進学した大学院(応用化学コース)ではこの研究をさらに発展させ,2回の学会発表と1件の特許を申請し,研究内容が新聞で紹介されました(日経産業新聞 2018年10月18日).