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名前:吉岡 玄記 日時:2005年02月23日 16時17分22秒

失礼致します.吉岡と申します.お忙しいところ大変申し訳ありません.
“遊離塩素2000ppm"の薬剤,塩素濃度の中和を考えております.が,設備や人脈が無く先生のサイトにたどり着きました.

@次亜塩素酸ナトリウム液(2000ppm)を中和

    aチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)
    b亜硫酸カルシウム(CaSO3・0.5H2O)
    cアスコルビン酸(C6H8O6)

1.塩素濃度の中和は行なわれるのか?(どのような化学反式か?)
2.副産物として有毒物質が生成されないか?(塩素ガス等)また,何が生成されるのか?その副産物は固形か?気体か?液体か?有害か無害か?
3.2000ppmの遊離塩素を中和するのに各薬剤の投入量は?

A次亜塩素酸カルシウム液(2000ppm)を同じく中和した場合どうなるのか.

以上を是非ご教授いただけませんでしょうか.よろしくお願い致します.
また,一方的に質問する非礼をお許しください.

名前:芦田 実 日時:2005年02月28日 18時00分00秒

吉岡 玄記 様

 必ずしも専門家ではありませんので,不正確な回答もあります.教育学部から公開しているホームページの質問箱とQ&A集にも回答(一部)を載せたいと思います.

質問206 “遊離塩素2000ppm"の薬剤,塩素濃度の中和を考えております.
@次亜塩素酸ナトリウム水溶液(2000ppm)を中和するために,チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)や亜硫酸カルシウム(CaSO3・0.5H2O)またはアスコルビン酸(C6H8O6)を用いる場合,
1.塩素濃度の中和は行なわれるのか?(どのような化学反式か?)
2.副産物として有毒物質が生成されないか?(塩素ガス等)また,何が生成されるのか?その副産物は固体か?気体か?液体か?有害か無害か?
3.2000ppmの遊離塩素を中和するのに各薬剤の投入量は?
A次亜塩素酸カルシウム水溶液(2000ppm)を同じく中和した場合どうなるのか.
 以上を是非ご教授いただけませんでしょうか.よろしくお願い致します.

回答 次亜塩素酸ナトリウムも次亜塩素酸カルシウムも水に溶解すると,電離して次亜塩素酸イオンを生じます.さらに,生じた次亜塩素酸イオンがわずかに加水分解して次亜塩素酸を生じますが,ここの計算では無視して差し支えないと思います.したがって,ここで遊離塩素2000ppmとは次亜塩素酸イオンの量(分析濃度)を意味していると考えられます.次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カルシウムとしての質量百万分率(ppm)ではありませんので,@とAの計算は同じになると思います.次亜塩素酸イオンの式量51.45g/mol,無水の次亜塩素酸ナトリウムの式量74.44g/mol,無水の次亜塩素酸カルシウムの式量142.98g/molより,それらの濃度はそれぞれ次のようになると思います.

  [ClO-] = 2000ppm = 2000mg/L = 0.0389mol/L  [NaClO] = 0.0389mol/L = 2900ppm

  [Ca(ClO)2] = 0.0195mol/L = 2790ppm

 次亜塩素酸イオンや次亜塩素酸,チオ硫酸イオン,亜硫酸イオン,およびアスコルビン酸等を含む酸化還元の半反応の標準電極電位(V)などを次の表に示します.

表1 標準電極電位
式No 半 反 応 ( 塩 基 性 や 中 性 の 水 溶 液 中 )電極電位反応
 12SO32- + 2H2O + 2e- → S2O42- + 4OH- -1.13 ×
 2SO42- + H2O + 2e- → SO32- + 2OH- -0.936 ○
 32SO32- + 3H2O + 4e- → S2O32- + 6OH- -0.576 ○
 4C6H6O6 + 4H2O + 2e- → C6H8O6 + 2OH-  pH7.0 +0.058 ○
 5ClO3- + H2O + 2e- → ClO2- + 2OH- +0.295 ×
 62ClO- + 2H2O + 2e- → Cl2(g)↑ + 4OH- +0.421 △
 7ClO2- + H2O + 2e- → ClO- + 2OH- +0.681 ×
 8ClO- + H2O + 2e- → Cl- + 2OH- +0.890 ○
 9Cl2(g) + 2e- → 2Cl- +1.358 △

 2つの半反応を組み合わせた場合,電極電位がより負の半反応(表1で上側)が左に進み,より正の半反応(表1で下側)が右に進みます.また,2つの反応の電極電位差が大きいほど,反応が激しく速くなります.塩基性や中性の水溶液中で次亜塩素酸イオンとチオ硫酸イオンを混合すると,○印の式(3)が左に進み,式(8)が右に進むと思います.

式(10)  2ClO- + S2O32- + 2OH- → 2Cl- + 2SO32- + H2O

一見すると,△印の式(6)が右に進む遅い反応も起こるように見えますが,生じる塩素が式(9)で右に進む2段階目の反応のほうが速くて,塩素ガスは空気中に出てくる前に大部分が消費されてしまうと思います.言い換えると,式(6)と式(9)の2段階の反応を合わせたものが式(8)になります.ただし,高濃度の水溶液同士を混合した場合には,副生成物として有毒な塩素ガスも少し発生すると思います.なお,×印の式(1),式(5),式(7)は濃度等の条件が逆向きになりますので,反応が起こらないと思います.式(7)と式(8)を組み合わせた次亜塩素酸イオンの不均化反応も,電極電位差が小さいのであまり起こらないか,または化学平衡になっていると思います.
 式(10)で亜硫酸イオンが生じましたので,式(2)が左に進み,式(8)が右に進む反応(式(10)よりも速い)が続いて起こると思います.

式(11)  2ClO- + 2SO32- → 2Cl- + 2SO42-

以上より,この反応条件では有毒な副生成物はほとんど生じないと思います.また,副生成物が生じたとしても微量であって,しかも水に溶けていますので,それが固体か,液体かという話は意味がないと思います.4つの次亜塩素酸イオンと1つのチオ硫酸イオンが反応して,4つの塩化物イオン(塩化ナトリウム)と2つの硫酸イオン(硫酸ナトリウム)が生じることになります.ただし,当量混合したときに全部が完全に反応するかどうかはよく分かりません.チオ硫酸ナトリウムには無水物(Na2S2O3)および5水和物(Na2S2O3・5H2O)が市販されています.それらの式量158.11g/molおよび248.18g/molより,2000ppmの遊離塩素の水溶液1Lを処理するのに必要な質量を求めます.

  [Na2S2O3] = 0.00973mol/L = 1.54g/L および 2.41g/L

 塩基性や中性の水溶液中で次亜塩素酸イオンと亜硫酸イオンを混合すると,式(11)より1つの次亜塩素酸イオンと1つの亜硫酸イオンが反応して,1つの塩化物イオンと1つの硫酸イオンが生じることになります.亜硫酸カルシウム(CaSO3・0.5H2O)の式量129.15g/molより,2000ppmの遊離塩素の水溶液1Lを処理するのに必要な質量を求めます.

  [CaSO3・0.5H2O] = 0.0389mol/L = 5.02g/L

反応物の亜硫酸カルシウムと生成物の硫酸カルシウム(石膏)の水に対する溶解度はそれぞれ約0.2%と0.005%であり,あまり水に溶けません.排水基準までは調べていませんが,過剰に添加しても排水に多量に含まれる恐れが少ないと思います.しかし,水に溶け難いので反応が遅いかもしれません.濁った液をよくかき混ぜて放置し,上澄み液(主に塩化ナトリウム水溶液)と沈殿(主に固体の硫酸カルシウムと未反応の亜硫酸カルシウム)を別々に廃棄処分する必要があると思います.沈殿の処分が面倒なら亜硫酸ナトリウムNa2SO3を使用すればよいと思います.これのほうが入手し易いし,価格も1/4程度ですむのではないでしょうか.亜硫酸ナトリウムNa2SO3の式量126.04g/molより,2000ppmの遊離塩素の水溶液1Lを処理するのに必要な質量を求めます.

  [Na2SO3] = 0.0389mol/L = 4.90g/L

 塩基性の水溶液中で次亜塩素酸イオンとアスコルビン酸(ビタミンC,C6H8O6)を混合すると,○印の式(4)が左に進み,式(8)が右に進むと思います.ただし,アスコルビン酸は次亜塩素酸よりも強い酸ですので,かき混ぜながら少しずつ慎重に加えるか,または過剰の塩基を加えて強塩基性にしてから加える必要があると思います.そうしないと,下の酸性領域における式(25)によって有毒な塩素ガスが発生すると思います.

式(12)  ClO- + C6H8O6 → Cl- + C6H6O6 + 3H2O

1つの次亜塩素酸イオンと1つのアスコルビン酸が反応して,1つの塩化物イオンと1つのデヒドロアスコルビン酸が生じることになります.生成物は無害で,水に溶けると思います.アスコルビン酸(C6H8O6)の式量176.13g/molより,2000ppmの遊離塩素の水溶液1Lを処理するのに必要な質量を求めます.

  [C6H8O6] = 0.0389mol/L = 6.85g/L

表2 標準電極電位
式No 半 反 応 ( 酸 性 の 水 溶 液 中 )電極電位反応
132SO42- + 4H+ + 4e- → S2O62- + 2H2O -0.253 △
142H2SO3 + H+ + 2e- → HS2O4- + 2H2O -0.068 ×
15C6H6O6 + 2H+ + 2e- → C6H8O6  pH5.0 +0.127 ○
16SO42- + 4H+ + 2e- → H2SO3 + H2O +0.158 ○
172H2SO3 + 2H+ + 4e- → S2O32- + 3H2O +0.400 ○
18H2SO3 + 4H+ + 4e- → S + 3H2O +0.500 ×
19S2O62- + 4H+ + 2e- → 2H2SO3 +0.569 △
20ClO3- + 3H+ + 2e- → HClO2(aq) + H2O +1.181 ×
 9Cl2(g) + 2e- → 2Cl- +1.358 ×
212HClO(aq) + 2H+ + 2e- → Cl2(g)↑ + 2H2O +1.630 ○
22HClO2(aq) + 2H+ + 2e- → HClO(aq) + H2O +1.674 ×

 酸を加えて酸性にした水溶液中で次亜塩素酸とチオ硫酸イオンを混合すると,式(17)が左に進み,式(21)が右に進むと思います.

式(23)  4HClO(aq) + 2H+ + S2O32- → Cl2(g)↑ + 2H2SO3

亜硫酸が生じましたので,式(16)が左に進み,式(21)が右に進む反応(式(23)よりも速い)が続いて起こると思います.なお,式(16)は△印の式(13)と式(19)を合わせた式になります.

式(24)  4HClO(aq) + 2H2SO3 → 2Cl2(g)↑ + 2SO42- + 4H+ + 2H2O

 酸を加えて酸性にした水溶液中で,次亜塩素酸と亜硫酸を混合すると,やはり式(24)の反応が起こると思います.次亜塩素酸とアスコルビン酸を混合すると,式(15)が左に進み,式(21)が右に進むと思います.

式(25)  2HClO + C6H8O6 → Cl2(g)↑ + C6H6O6 + 2H2O

以上より,酸性領域では式(9)が式(21)よりも起こり難いために有毒な塩素ガスが発生して,危険だと思います.しかし,次亜塩素酸ナトリウム,チオ硫酸ナトリウムや亜硫酸カルシウムの水溶液は中性〜弱塩基性だと思いますので,特別に酸を加えて酸性にしない限り,この様な反応が起こる可能性は小さいと思います.

埼玉大学教育学部理科教育講座
芦田 実

名前:吉岡 玄記 日時:2005年03月02日 16時58分50秒

お忙しい中ご回答,本当にありがとうございます.
アスコルビン酸を使用しての中和・排水が容易であれば,それを期待しておりました.内容を参考にし今後も取り組んでいきます.
まだまだ寒さは続いておりますが,お体お気をつけて頑張ってください.