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名前:馬場 智子 日時:2004年11月28日 21時00分36秒

『過マンガン酸カリウムによる酸化還元摘定』
濃度の正確に分かっている還元剤(シュウ酸ナトリウム0100(mol/l)標準溶液を使って,酸化剤〔過マンガン酸カリウム約01(mol/l)水溶液〕の濃度を正確に決定し,(実験1)この酸化剤を使って未知濃度の還元剤(過酸化水素水)の濃度を求める(実験2).
という実験をしました.
実験1で始める直前にシュウ酸ナトリウム標準溶液を火に掛け80(+α)℃程度まで加熱し滴定中の液温が60〜80℃の範囲内にあるよう手早く行う.
とあるのですがそれはなぜですか?60℃以下や80℃以上あってはいけないのですか?
また実験1と2でシュウ酸ナトリウム標準溶液と過酸化水素水に9(mol/l)硫酸を約5ml加えました.
なぜですか?それと硫酸は正確に5mlではなくてもよいのですか?
また過マンガン酸カリウム水溶液は褐色試薬ビンにいれておく.(2日間寝かせる)とあります.なぜですか?
たくさん質問してしまってすみません.
よろしくお願いします.

名前:芦田 実 日時:2004年12月11日 16時00分00秒

馬場 智子 様

 必ずしも専門家ではありませんので,不正確な回答もあります.教育学部から公開しているホームページの質問箱とQ&A集にも回答(一部)を載せたいと思います.

質問171 過マンガン酸カリウムによる酸化還元滴定において,濃度の正確に分かっている還元剤(シュウ酸ナトリウム0.100 mol/L)標準溶液を使って,酸化剤(過マンガン酸カリウム約0.1 mol/L水溶液)の濃度を正確に決定し(実験1),この酸化剤を使って未知濃度の還元剤(過酸化水素水)の濃度を求める(実験2)という実験をしました.
 実験1で始める直前にシュウ酸ナトリウム標準溶液を火に掛け80(+α)℃程度まで加熱し,滴定中の液温が60〜80℃の範囲内にあるよう手早く行う,とあるのですがそれはなぜですか?60℃以下や80℃以上あってはいけないのですか?
 また実験1と2でシュウ酸ナトリウム標準溶液と過酸化水素水に9 mol/L硫酸を約5mL加えました.なぜですか?それと硫酸は正確に5mLではなくてもよいのですか?
 また過マンガン酸カリウム水溶液は褐色試薬ビンにいれておく(2日間寝かせる),とあります.なぜですか?

回答 質問文中に間違いがあります.シュウ酸ナトリウムの濃度は0.100 mol/L,過マンガン酸カリウムの濃度は約0.1 mol/Lだと思います.シュウ酸ナトリウム標準溶液そのものを火にかけることは考えられません.シュウ酸ナトリウム標準溶液から一定量(例えば10.00 mL)をホールピペットで分取し,それに硫酸約5mLをメスシリンダーで加えた後の混合液を加熱しているはずです.
 加熱する理由は,この酸化還元反応の速度が遅いので,温度を上げて反応速度を大きくするためです.60℃以下でもそれほど問題はないと思いますが,実験に長い時間がかかります.最初から多量に過マンガン酸カリウムを滴下すると,二酸化マンガンができて実験がうまくいかないためです.したがって,最初のうちは1滴ずつ滴下して,その桃色が消えてから次の1滴を滴下する必要があります.なお,シュウ酸ナトリウムの溶解や硫酸の希釈に使用した水に有機物等の還元性不純物が少量含まれている場合には,それが過マンガン酸カリウムとゆっくり反応する恐れがあります.最後に滴下した半滴の過マンガン酸カリウム溶液による桃色が約30秒間消失しない点を滴定の終点としていると思いますが,言い換えると,これは30秒以上放置していたら不純物と反応して,桃色が消失することを意味します.したがって,あまり温度が低いのは望ましくありません.
 80℃以上に加熱すると,シュウ酸ナトリウムや過マンガン酸カリウムが熱分解する恐れがあります.さらに,湯気が出たり飛沫が飛び散って,シュウ酸ナトリウムの物質量(mol)が減少する恐れがあります.
 硫酸を加えるのは,硫酸酸性で反応させるためです.この場合には,過マンガン酸イオンはほとんど無色のマンガンイオンに還元されます.中性やアルカリ性では別の反応が起こります.過マンガン酸イオンは二酸化マンガン(褐色沈殿)になり,うまく滴定できない(終点が決め難い?反応が定量的に進まない?)と思います.濃度から考えて,硫酸は大過剰になりますので,正確な体積を分取する必要はありません.混合後の被滴定液の体積が不正確になりますが,もともと滴定中に滴下液によって被滴定液の体積は増加していきますので,何の問題もありません.滴定中は濃度ではなく,(最初に分取した)物質量(mol)が問題になるからです.
 実験に使うイオン交換水等には有機物等の還元性不純物が少量含まれています.これを除去するため,過マンガン酸カリウムを溶解して10〜15分間静かに煮沸し,この不純物を酸化したのち室温で放冷します.酸化物や二酸化マンガン等の固体が析出しますので,上澄み液をガラスフィルターでろ過して,過マンガン酸イオンが光分解するのを防ぐため褐色ビンに保存します.2日間寝かせる理由は,不純物の酸化反応を完全に終わらせるため,析出した固体を完全に沈殿させて上澄み液を取り出すため等が考えられます.すなわち,濃度がこれ以上変化しないような,安定な過マンガン酸カリウム水溶液を得るためだと思います.

埼玉大学教育学部理科教育講座
芦田 実