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名前:こうさか 日時:2004年03月03日 15時31分03秒

先生こんにちは.電子数についての質問です.電子の最大収容数は,K殻が2個,L殻が8個,M殻が18個ですが,どうしてこのような収容数になるのですか.量子力学から決められたような気がしていますが,よくわかりません.また,仮に理論的に決められたとすれば,この考え方が正しいことを証明した実験があるのでしょうか,教えてください.

名前:芦田 実 日時:2004年03月06日 19時00分00秒

こうさか 様

 このホームページは無機化学系(または物理化学系)の研究室で作っています.必ずしも専門家ではありませんので,不正確な回答もあります.もっと正確なことや詳しいことが知りたければ,やはり量子化学や物理学(量子力学など)の専門家に質問して下さい.教育学部から公開しているホームページの質問箱とQ&A集にも回答(一部)を載せたいと思います.

質問79 電子の最大収容数は,K殻が2個,L殻が8個,M殻が18個ですが,どうしてこのような収容数になるのですか.量子力学から決められたような気がしていますが,仮に理論的に決められたとすれば,その考え方が正しいことを証明した実験があるのでしょうか.

回答 科学史に沿って考えていきます.原子モデルは,長岡半太郎やラザフォードのモデルから始まっていると思います.このモデルでは,陽性の粒子(原子核)のまわりを陰性の粒子(電子)が円運動しています.電子の円運動が加速度運動なので古典物理学的に考えると,電子は絶えずエネルギーを放出しながら,しだいに原子核に接近し吸収されてしまうことになり,このモデルには不都合な点がありました.
 ボーアが次のような仮定に基づいてモデルを修正しました.電子は核のまわりの円軌道のどれか1つに沿って,クーロン力を受けながら回っており,その軌道を離れない限りエネルギーの放出や吸収は起こらない(定常状態).軌道はそれぞれ特定のエネルギーレベルに対応しており,1つの軌道から別の軌道へ電子が移動(せん移)すれば,それに対応したエネルギー(光,電磁波)の放出や吸収が起こる.(なお,エネルギーを持っているのは軌道上の電子であって,軌道そのものがエネルギーを持っているわけではありません.)電子の角運動量は,ある最小単位(量子h/2π)の整数倍である.このモデルによって水素の原子半径を計算すると実測値と良く一致しているそうです.さらに,ボーアモデルは水素の原子スペクトル(バルマー系列など)には厳密に当てはまるそうです.
 その後に,物質に磁場をかけると,その原子スペクトルがわずかに分裂するゼーマン効果が発見され,ゾンマーフェルトがこの現象を電子が円運動だけでなく,だ円運動(p軌道やd軌道?)するためだと説明しました.さらに,物質に電場をかけると,その原子スペクトルが微細構造に分かれるシュタルク効果も発見されました.これらの効果はボーアの理論では説明できませんでした.
 ボーアモデルは,電子が2個以上の原子をうまく説明できませんでした.その理由の1つは,電子が粒子であると同時に波動の性質を持つためでした.そこで,シュレーディンガーが波動方程式を考え,これを解くために3つのパラメーター,主量子数(=1,2,3,…),方位量子数(≦−1),磁気量子数(≦| |)を導入しました(詳細は省略します).で決まる1つの軌道に入れる電子の数は2個までで,それらの電子は互いに自転方向が異なっていて(スピン量子数=±1/2),原子核のスピンと同じ方向と逆方向があります.以上の4つのパラメーターと原子の電子配置の関係を下表にまとめます.3d軌道が4s軌道よりもエネルギーが大きいこと,3d軌道に電子が5個入った場合と10個入った場合が安定であることから,3d軌道と4s軌道には電子が複雑な順序で入ります.K,Ca,Cu,Znの値はこれで良いのか,この逆にすべきなのか,よく分かりません.

殻   
元素 1s 2s 2p 2p 2p 3s 3p 3p 3p 3d 3d 3d 3d 3d 4s
           
He            
Li          
Be          
-1 0 1        
-1 0 1 1 1        
-1 0 1 1 1 1        
-1 0 1 2 1 1        
-1 0 1 2 2 1        
Ne -1 0 1 2 2 2        
Na 2 2 2      
Mg 2 2 2      
Al -1 0 1 2 2 2    
Si -1 0 1 2 2 2 1 1    
-1 0 1 2 2 2 1 1 1    
-1 0 1 2 2 2 2 1 1    
Cl -1 0 1 2 2 2 2 2 1    
Ar -1 0 1 2 2 2 2 2 2    
2 2 2 2 2 2  
Ca 2 2 2 2 2 2  
Sc -2 -1 0 1 2 2 2 2 2 2 2
Ti -2 -1 0 1 2 2 2 2 2 2 2 1 1
-2 -1 0 1 2 2 2 2 2 2 2 1 1 1
Cr -2 -1 0 1 2 2 2 2 2 2 2 1 1 1 1 1
Mn -2 -1 0 1 2 2 2 2 2 2 2 1 1 1 1 1
Fe -2 -1 0 1 2 2 2 2 2 2 2 2 1 1 1 1
Co -2 -1 0 1 2 2 2 2 2 2 2 2 2 1 1 1
Ni -2 -1 0 1 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 1 1
Cu -2 -1 0 1 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2
Zn -2 -1 0 1 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2

 の値が殻(K,L,M,…)と対応しています.=0がs軌道に,=1(=-1 0 1)が3個のp軌道に,=2(=-2 -1 0 1 2)が5個のd軌道に対応しています.これが電子の最大収容数が,K殻が2個,L殻が8個,M殻が18個になる理由だと思います.なお,この電子配置は周期表そのものであり,見かけの表現を変えただけです.周期律を理論的に説明する方法は他にはないと思います.
 シュレーディンガーの波動方程式が厳密に解けているのは,水素原子H,水素分子イオンH,ヘリウムイオンHeだけだそうです.その他のものは複雑すぎて,摂動法や変分法で近似的に計算するしかないそうです.ということは,全ての原子の電子配置が理論的に完全に証明されたわけでもなさそうです.しかし,この電子配置により原子スペクトルや特性X線,イオン化エネルギー,電子親和力などの測定値,原子半径が同周期なら右に行くほど小さくなること,その他の物理的・化学的な現象(ゼーマン効果,シュタルク効果など)が今のところ矛盾無く説明できていていると思います.したがって,少なくとも間接的に実験的に証明されていると言っても良いと思います.また,この電子配置は,物質の化学的性質や化学結合等を考える上での基礎にもなっていると思います.したがって,近似計算で求めた解でも良いのではないでしょうか.これが人間がたどってきた科学的な方法や考え方であり,理科としての物の見方や考え方に通じるのではないでしょうか.

埼玉大学教育学部理科教育講座
芦田 実