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名前:塾講師 日時:2003年07月24日 03時14分46秒

大学生のバイトなんですが,生徒への「いじわる」な問題を考えていたら,自分も分からない問題を思いついてしまい,弱りつつ,自分でも気になっております.回答をお願いします.

金属の塩で沈澱を作る物質を分解して別の化合物を取り出せ,という問題を考えたんですが,水酸化物なら酸で溶かせますよね(塩基性水酸化物だから).炭酸塩・硫化物も強酸で溶かせるはず(弱酸遊離).では,強酸塩はどうやって分解すればよいでしょうか.高校化学で強酸塩といったら限定されていて,塩化水銀(T),塩化銀,塩化鉛(U),硫酸カルシウム(セッコウ),硫酸バリウム,硫酸鉛くらいです.塩化銀・水銀は硫酸を加え加熱すれば(塩化水素の揮発)硫酸塩が出来て溶解しますよね.塩化銀は日光で銀を沈澱させるという答えでもOKだと思います.では,塩化鉛はどう処理すればよいでしょうか?(硫酸とは反応しないと思います.熱湯で溶かして亜鉛を入れる,という答も考えましたが正解なのでしょうか.)あと,硫酸鉛はどうですか?(@硫酸カルシウムは強酸を加え硫酸水素カルシウムにして溶かし,炭酸ナトリウムを加えて炭酸カルシウムを沈澱させる.A硫酸カルシウムはわずかに水に溶けているので,いきなり炭酸ナトリウムを加えても炭酸カルシウム沈澱を作る.というのも考えましたが正解でしょうか?)参考書で調べていたら硫酸鉛は酢酸ナトリウム水溶液に溶解と書いてありましたが,硫酸鉛沈澱+酢酸ナトリウム→酢酸鉛+硫酸ナトリウムということなのでしょうか?(そうだとすればなぜこの方向で反応が進むのですか?)
これらの強酸塩も微量ながら水に溶けていることを生かして,アルミニウムor鉄orニッケルを入れれば,硫酸カルシウム以外はイオン化傾向の差のため単体の金属が析出する,というのは正解ですか?
(「硫酸鉛は鉛蓄電池の逆反応で分解」「イオン交換で無理矢理に」というようなやり方も含めて教えて下さい.)

これらの強酸塩が安定だとすれば,カルシウム・鉛などのそれぞれの金属元素の天然産出量のうち,これらの安定な強酸塩の形で産出する比率は高いのでしょうか?

あと,乾燥剤でソーダ石灰(NaOH・CaO)を使っている問題をよく見かけますが,なんでCaOではないの?という問題も考えたのですが,これは,塩基性乾燥剤という機能は同じでソーダ石灰のほうが安いから(NaとCaを分離する手間が必要)という答でよいのでしょうか?

いろいろ質問しましたが,単なるツメコミではなく興味を育てるようにしたいと思っていますので,是非協力よろしくお願いします.僕自身も気になってますし.

名前:塾講師 日時:2003年07月24日 03時21分49秒

質問の訂正です.

これらの強酸塩も微量ながら水に溶けていることを生かして,アルミニウムor鉄orニッケルを入れれば,・・・
→亜鉛も

それから硫酸バリウムについても教えて下さい.

名前:芦田 実 日時:2003年07月25日 20時20分

塾講師 様

 必ずしも専門家ではありませんし,実験して確認したわけでもありませんので,不正確な回答もあります.教育学部から公開しているホームページの質問箱とQ&A集にも回答(一部)を載せたいと思います.

質問45 金属の塩で沈殿を作る物質を分解して別の化合物を取り出せ,という問題を考えたんですが,水酸化物なら酸で溶かせますよね(塩基性水酸化物だから).炭酸塩・硫化物も強酸で溶かせるはず(弱酸遊離).では,強酸塩はどうやって分解すればよいでしょうか.高校化学で強酸塩といったら限定されていて,塩化水銀(T),塩化銀,塩化鉛(U),硫酸カルシウム(セッコウ),硫酸バリウム,硫酸鉛くらいです.塩化銀・水銀は硫酸を加え加熱すれば(塩化水素の揮発)硫酸塩が出来て溶解しますよね.塩化銀は日光で銀を沈殿させるという答えでもOKだと思います.では,塩化鉛はどう処理すればよいでしょうか?(硫酸とは反応しないと思います.熱湯で溶かして亜鉛を入れる,という答も考えましたが正解なのでしょうか.)あと,硫酸鉛はどうですか?(@硫酸カルシウムは強酸を加え硫酸水素カルシウムにして溶かし,炭酸ナトリウムを加えて炭酸カルシウムを沈殿させる.A硫酸カルシウムはわずかに水に溶けているので,いきなり炭酸ナトリウムを加えても炭酸カルシウム沈殿を作る.というのも考えましたが正解でしょうか?)参考書で調べていたら硫酸鉛は酢酸ナトリウム水溶液に溶解と書いてありましたが,硫酸鉛沈殿+酢酸ナトリウム→酢酸鉛+硫酸ナトリウムということなのでしょうか?(そうだとすればなぜこの方向で反応が進むのですか?)
 これらの強酸塩も微量ながら水に溶けていることを生かして,アルミニウムor鉄orニッケルor亜鉛を入れれば,硫酸カルシウム以外はイオン化傾向の差のため単体の金属が析出する,というのは正解ですか?それから硫酸バリウムについても教えて下さい.
 (「硫酸鉛は鉛蓄電池の逆反応で分解」「イオン交換で無理矢理に」というようなやり方も含めて教えて下さい.)

回答 質問に書かれている方法で,ほぼ正しいと思います.ただし,塩化鉛は硫酸と反応して,硫酸鉛に変わると思います.また,硫化物を溶かすときは通常は硝酸で加熱します.硫黄イオンが硫酸イオンに酸化されて除去されるためだと思います.以下,操作が簡単で別の化学物質に変化する反応を表で示します.ただし,取り出す(単離)ことができるかどうかは別問題であり,生成物ごとに違うと思います.通常は,上澄み液を捨ててから薬品を添加すると思います.生成物が錯イオンのときは溶解することを,↓印が付いているときは別の沈殿に変化することを,空白の欄は反応しないことを表します.これらの反応は化学実験(定性分析)の教科書に載っていると思います.

添加薬品と操作方法など Hg2Cl2 AgCl PbCl2 PbSO4 CaSO4 BaSO4
過剰のHCl等を加える   [AgCl2]- [PbCl4]2-      
H2Sを通じる.またはNa2S等を加える Hg↓+HgS↓ Ag2S↓ PbS↓ PbS↓    
KCN等を加える Hg2(CN)2 AgCN↓        
KSCN等を加える Hg2(SCN)2 AgSCN↓        
K2CrO4等を加える     PbCrO4 PbCrO4    
H2SO4等を加える     PbSO4      
K4[Fe(CN)6]等を加える     Pb2[Fe(CN)6]↓      
NH3水を加える   [Ag(NH3)2]+ Pb(OH)2      
NaOHを加える Hg2O↓   [Pb(OH)4]2-      
NaHCO3等を加える         Ca(HCO3)2  
NH3-NH4Cl弱塩基性で(NH4)2CO3を加える Hg2CO3   PbCO3 PbCO3 CaCO3  
NH3塩基性で(NH4)2C2O4を加える Hg2C2O4   PbC2O4 PbC2O4 CaC2O4・H2O↓  
Na2HPO4等を加える     PbHPO4 PbHPO4 CaHPO4  
Na3PO4等を加える     Pb3(HPO4)2 Pb3(HPO4)2 Ca3(HPO4)2  

上の表以外にも反応があるかも知れませんが,きりがないので省略します.
 沈殿が別の沈殿に変化する理由は,そちらのほうが溶解度が小さいからだと思います.言い換えると,そちらのほうがエネルギー的に安定だからだと思います.沈殿が錯イオンになって溶解する理由も同様に,そちらのほうがエネルギー的に安定だからだと思います.硫酸鉛が酢酸ナトリウム水溶液に溶解する理由も同じだと思います.硫酸バリウムは,バリウムの沈殿の中では最も溶解度が小さく,最も安定です.上の表のような簡単な方法では分解できません.質問に書いてあるようにイオン交換樹脂や電気透析で無理矢理に分解するか,1200℃以上に加熱して熱分解する方法しかないと思います.

質問46 これらの強酸塩が安定だとすれば,カルシウム・鉛などのそれぞれの金属元素の天然産出量のうち,これらの安定な強酸塩の形で産出する比率は高いのでしょうか?

回答 カルシウムは天然には,炭酸塩(方解石,氷州石,アラレ石,大理石,石灰岩など),硫酸塩(セッコウ)として地球上に広く多量に存在し,フッ化物(ホタル石),リン酸塩としても産するそうです.また,地殻を構成する多くのケイ酸塩の成分となっているそうです.鉛は方鉛鉱PbS,白鉛鉱PbCO3,硫酸鉛鉱PbSO4,紅鉛鉱PbCrO4などとして単独に,または亜鉛,金,銀,銅鉱などとともに複雑な鉱物として産するそうです.もっと詳しいことが知りたければ,地学の専門家に質問して下さい.

質問47 乾燥剤でソーダ石灰(NaOH・CaO)を使っている問題をよく見かけますが,なんでCaOではないの?という問題も考えたのですが,これは,塩基性乾燥剤という機能は同じでソーダ石灰のほうが安いから(NaとCaを分離する手間が必要)という答でよいのでしょうか?

回答 ソーダ石灰は白色粒状で,水と二酸化炭素の吸収剤としてよく使用されます.CaO,NaOH,KOHを単独で使うよりも二酸化炭素の吸収能率が良いそうです.また,NaOH,KOHのように潮解しないので,取り扱いやすいそうです.CaOは堅い大きな塊で取り扱いにくいのだと思います.CaOは水を吸うともろくなり,粉末になるそうです.値段は純度にもよりますが,CaO>ソーダ石灰>NaOHの順に安くなると思います.

埼玉大学教育学部理科教育講座
芦田 実

名前:塾講師 日時:2003年07月26日 17時39分23秒

ありがとうございました.
たしかに,NaOHは海水の電気分解で生産しているみたいですし,値段がCaO>ソーダ石灰>NaOHとなるのも納得できる気がします.
硫酸鉛の酢酸ナトリウムの溶解についてだけは,生成側が酢酸鉛であれば,やはり直感的には納得しきれないのですが,疑問点も絞り込めましたので,自分でも引き続き調べていこうと思います.(硫酸鉛+ナトリウムイオン→硫酸ナトリウム+鉛イオンの反応性が,酢酸鉛+硫酸イオン→硫酸鉛+酢酸イオンの反応性より大きいのかもしれません.)