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名前:時沢 吠子 日時:2002年07月14日 18時58分

2(オーツーマイナス)イオンのO−O結合の強さとO2(オーツープラス)イオンのO−O結合の強さとO2(オーツー)分子のO−O結合の強さについて,それぞれの結合の強さの違いを分子軌道法を使って説明してください.お願いします.

名前:芦田 実 日時:2002年07月19日 22時46分

時沢 吠子 様

 必ずしも専門家ではありませんので,不正確な回答もあります.近いうちに,教育学部からホームページを公開したときに,回答の一部をQ&A集に載せたいと思います.

質問14 O2(オーツーマイナス)イオンのO−O結合の強さとO2(オーツープラス)イオンのO−O結合の強さとO2(オーツー)分子のO−O結合の強さについて,それぞれの結合の強さの違いを分子軌道法を使って説明してください.

回答 (注 下の図1を参照しながら読んで下さい)酸素原子の基底状態における電子配置は1sに2個,2sに2個,2pxに2個,2pyに1個,2pzに1個で,合計8個の電子があります.この場合3つの2p軌道はエネルギーが等しいので,2pyまたは2pzに電子2個でも同じことです.
 2つの酸素原子が充分に離れていて化学結合していない場合には,上の電子配置が2組あるだけです(合計16個の電子).2つの酸素原子が近付いてきても,内殻の1s軌道はあまり影響を受けませんので,そのまま残っていると考えてもよいと思います.
 2つの酸素原子が近付いてくると,外殻の電子軌道は互いに相互作用して,その形状やエネルギーが変化します(化学結合が起こり,酸素分子になります).2つの2s軌道は,酸素原子のときよりも少しエネルギーの小さい結合性σ2s軌道と少しエネルギーの大きい反結合性σ2s軌道に分かれます.4つの電子が2つの酸素原子核に共有される形になりますので,軌道の形とエネルギーが同じだと電子同士が衝突してしまうためです.結合性σ2s軌道と反結合性σ2s軌道でエネルギーの増減が打ち消しあい,2つの酸素原子の2s電子のときと同じになりますので,これらはエネルギー的には化学結合していないのと同じことになります.
 6つの2p軌道も上と同様に分かれます.酸素原子のときの2px軌道の方向で化学結合したと考えますと,酸素原子のときよりもかなりエネルギーの小さい結合性σ軌道が1つ(σ2px),少しエネルギーの小さい結合性π軌道が2つ(π2py,π2pz),少しエネルギーの大きい反結合性π軌道が2つ(π2py,π2pz),かなりエネルギーの大きい反結合性σ軌道が1つ(σ2px)できます.酸素原子のときの8個の2p電子は,σ2pxに2個,π2pyに2個,π2pzに2個,π2pyに1個,π2pzに1個入ります(反結合性π軌道に不対電子が2個でき,強い常磁性を示します).1つの結合性π軌道の電子2個と2つの反結合性π軌道の電子2個のエネルギーの増減が打ち消しあいます.結局,残った1つの結合性σ軌道と1つの結合性π軌道の合計エネルギーと酸素原子のときの2つの2p軌道の合計エネルギーの差の分だけエネルギーが減少しています.これが酸素分子の結合エネルギーであり,O−O結合が2重結合といわれる理由です.
   

 (注 下の図2を参照しながら読んでください)O2(オーツーマイナス)イオンは,酸素分子よりも反結合性π軌道に電子が1つ増えますので,打ち消しあった残りが1.5重結合になります.酸素分子よりもO−O結合が弱くなり,不安定に(反応性が大きく,電子1個を放出しやすく)なります.このスーパーオキシドが活性酸素の一種だといわれる理由です.なお,一般に原子が陰イオンになるとその半径が大きくなります.この場合も同様に,原子核が電子を引きつける力が弱まりますので,原子核の間の距離が酸素分子のときよりも長くなると思います.
   

 (注 下の図3を参照しながら読んでください)O2(オーツープラス)イオンは,酸素分子よりも反結合性π軌道の電子が1つ減りますので,打ち消しあった残りが2.5重結合になります.単独ならば酸素分子よりもO−O結合が強くなります.ただし,外から電子1つを奪いやすくなると思いますので,やはり自然界においては酸素分子よりも不安定になると思います.言い換えますと,酸素分子からO2(オーツープラス)イオンを作るには外からエネルギーを加えて,電子1つを放出させなければなりません.加えたエネルギーは自由になった電子が持っています.酸素分子に戻るときには,その余分なエネルギーを放出します.すなわち,O2(オーツープラス)イオンと自由電子のエネルギーの合計と酸素分子の持つエネルギーを比較したら,酸素分子のほうが安定であることが分かると思います.なお,一般に原子が陽イオンになるとその半径が小さくなります.この場合も同様に,原子核が電子を引きつける力が強まりますので,原子核の間の距離が酸素分子のときよりも短くなると思います.
   

埼玉大学教育学部理科教育講座
芦田 実