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名前:飯谷 慎平 日時:2002年06月10日 20時08分

大阪の高校生ですが,教科書を読んでふと疑問に思ったのが
アルカリ金属の元素はイオン化エネルギーが小さく,容易に1価の
陽イオンになるのはなぜですか?各元素の電子配置に関係があるのでしょうか??
 あとハロゲンの元素は,電子親和力が大きく,容易に1価の陰イオンになると書いてありましたが,なぜでしょうか?これも各元素の電子配置が関係あるのでしょうか??どうしても気になります!!教えて下さい.お願いします.

名前:芦田 実 日時:2002年06月14日 20時11分

飯谷 慎平 様

 必ずしも専門家ではありませんので,不正確な回答もあります.近いうちに,教育学部からホームページを公開したときに,回答の一部をQ&A集に載せたいと思います.

質問11 アルカリ金属の元素はイオン化エネルギーが小さく,容易に1価の陽イオンになるのはなぜですか?各元素の電子配置に関係があるのでしょうか?あとハロゲンの元素は,電子親和力が大きく,容易に1価の陰イオンになると書いてありましたが,なぜでしょうか?これも各元素の電子配置が関係あるのでしょうか?

回答 負の電荷を帯びた電子は正の電荷を帯びた原子核から静電的な引力を受けています.クーロンの法則によれば2つの点電荷q,q’の間に働く静電気力Fは,電荷の積qq’に比例し,その距離rの2乗に反比例します.
 量子力学や波動関数などの難しい話は省略しますが,電子軌道は,太陽を回る地球の軌道のような一定のものではありません.球形のs軌道,細長いp軌道,その他複雑な形をしたd軌道,f軌道があります.内殻の電子によって原子核の正電荷がシールド(正負電荷の打ち消し)されますが,それは完全なものではではありません.最外殻の電子でも原子核からの(時間的な)平均距離が最も長いというだけで,ある瞬間には原子のずっと内部まで入り込むことがあるからです.したがって,最外殻の電子に有効に働く原子核の正電荷は+eよりも少し大きくなります(例えば,+(1+α)e).
 アルカリ金属の原子は最外殻に1つの電子があります.他の内殻電子と比較して原子核からの平均距離が長いため,原子核からの静電引力が他より相対的に弱くなっています.外からイオン化エネルギーに相当する分のエネルギーを吸収すると,これが(例えば,+(1+α)eの正電荷と−eの負電荷の間の静電引力に打ち勝って)原子の外に飛び出し,残りが1価の陽イオンになります.すると,最外殻の電子軌道がなくなった分だけ大きさが小さくなるはずです.さらに,原子核の陽子が1つ余分になりますので,残りの電子を引きつける静電引力が強まり,残りの電子軌道が縮んで,さらに大きさ(半径=距離r)が小さくなります.2つ目の電子が(例えば,+(2+β)eの正電荷と−eの負電荷の間の静電引力に打ち勝って)飛び出すためには,非常に大きな第2イオン化エネルギーが必要となります.したがって,そういうことはほとんど起こりません.結果的に希ガスの電子配置がもっとも安定ということになります.
 第2族のアルカリ土類金属になりますと,最外殻に2つの電子があり,これらは原子核からの静電引力が内殻電子よりも相対的に弱く,外に飛び出しやすい性質があります.しかし,原子核の陽子の数も1つ増えていますので,アルカリ金属よりも原子核からの静電引力が少し大きくなり,アルカリ金属より少しイオン化し難く(イオン化エネルギーが大きく)なっています.言い換えますと,アルカリ金属より原子やイオンの大きさ(原子半径,共有結合半径,イオン半径)が少し小さくなっています.すなわち,同一周期なら周期表を右に行くにつれて大きさが小さくなります.
 ハロゲンでは最外殻に電子の空席が1つあり,空間的な電子のシールドに弱点があります.同一周期では原子核からの静電引力が最も大きくなりますので,弱点(空席)を通して外から電子1つを引き寄せ(電気陰性度)て取り込み,1価の陰イオンになります.このとき外からの電子が持っていたエネルギーのうち電子親和力に相当する分のエネルギーを放出させないと,捕まえられません.今度は電子が1つ余分になりますので,電子を引きつける原子核の静電引力が弱まり,電子軌道が膨らみ,大きさ(半径=距離r)が大きくなります.したがって,2つ目の電子を取り込む余力はほとんどありません.結果的に希ガスの電子配置がもっとも安定ということになります.
 希ガスでは最外殻に電子の空席がありませんので,そのままの状態が最も安定になります.
 なお,水中では水が極性分子なので,イオンとの間に静電引力が働き,イオンを取り囲むようにして結合します.この現象を水和と言います.これにより局在化していたイオンの電荷の分布が拡がって,さらに安定化します.
 結論として,正電荷を持つ原子核と負電荷を持つ電子の間の静電気的な引力(クーロンの法則)が主に関係しています.それゆえ,最外殻の電子の数(電子配置),原子核の陽子の数(原子番号),イオンの価数,原子核と最外殻の電子の平均距離(原子半径,イオン半径,周期)などが複雑に関係しています.

埼玉大学教育学部理科教育講座
芦田 実