飲料水と環境                                   前に戻る

1.はじめに
 環境と健康に関して信じていることが,誤解や非常識である場合がある.自分でデータを良く調べて,判断し考え直す必要があると思われる.

2.ミネラルウォータと水道水の比較
 水道水とミネラルウォータで基準が同じ項目には,一般細菌,大腸菌群,カドミウム,水銀,鉛,セレン,六価クロム,シアン,硝酸性窒素等がある.これらの毒物については両方とも基準が厳しい.水道水だけにあってミネラルウォータにない項目には,トリハロメタン等の有機物,農薬類,その他多数があり,水道水が劣化してしまったことを意味する.ミネラルウォータだけにあって水道水にない項目には,バリウム,硫化物があり,ミネラルウォータが鉱物を含むことを意味する.ミネラルウォータの方が基準が緩い項目を表1に示す.特に問題になるのはヒ素と思われる.無機のヒ素は毒性が高く,有機ヒ素は無害である.ヒ素は海底にかなりある→石灰岩中にはかなりヒ素がある→ミネラルウォータでカルシウム分の多いものが怪しい.ミネラルウォータの基準が緩い理由は,嗜好品だからであり,ミネラルによって味がよいから飲むものである.炊事にまでミネラルウォータを使うことは想定されていない.一方,水道水は水分の全てを水道水から取ることを前提に基準が作られている.

表1 ミネラルウォータの方が基準が緩い項目(単位mg/L)
元素ミネラルウォータ水道水 元素ミネラルウォータ水道水 元素ミネラルウォータ水道水
ヒ素As0.050.01 ホウ素B〜5 マンガンMn0.05
フッ素F0.8 亜鉛Zn1.0    

3.海洋深層水から作ったミネラルウォータとは
 海洋深層水は栄養塩が豊富で,そのまま利用する場合には,魚の養殖などに適している.沿岸から多少離れた場所からくみ上げるため,都市の下水等に含まれる人工的汚染物が少ない.海洋深層水は逆浸透膜法で作る.海水には4%ぐらい食塩等が溶けている.これらのイオンは通さないが,水だけを通す膜を作り,浸透圧の数倍の圧力を逆向きにかけて,海水側から真水側に水を移動させて作る.装置も運転費用も高価になる.できた水は,海水成分が少し混じった水である(蒸留水に海水を数滴たらした程度).海水よりもイオンの絶対的な濃度は小さいが,組成が少し異なり,小さいイオンであるナトリウム,マグネシウム等の割合が多い.

4.水道水の水質の変化
 原水の水質が悪くなっているとした場合の原因には,@下水処理場のし尿処理水が河川に放流されている.→A生物処理では簡単に分解されない有機物が徐々に増えている.→B塩素消毒によって,発ガン性のトリハロメタンが増えている.Cマンションの貯水槽の清掃が不十分などが考えられる.しかし,田からの水,生活雑排水,ヨシ・アシのある池の水はトリハロメタンが生成するが,下水処理水はそれほどでもないので,心理的な問題かもしれない.原水が良くなっていると考えられる理由には,@河川に直接流れ込んでいた生活雑排水が,下水道の完備によって処理されている.A工場排水は国・県の規制によって格段にきれいになった.B農薬の毒性が大幅に低下し,分解性も上がった.C合成洗剤等も生分解性の高いものになった.DPCB等の難分解性の毒物が規制された.E水道の配管に鉛管が以前ほど使われなくなった等が考えられる.総合的にみると,水道水の原水は良くなっているように思われる.浄水の処理方法は,昔は緩速ろ過法が主流だったが,今は急速ろ過法になり,生分解能がやや弱くなった.しかし,塩素殺菌だけでなく,オゾン殺菌等の高度な処理も導入され,処理方法は進歩している.残る問題は,マンションの給水システムぐらいであろう.

5.浄水器を通した水は安全か
 一般的な浄水器は,中空糸(ある種のフィルター)を使っており,やや大きめの砂粒,鉄粉やオーシスト(クリプトスポリジウムという原虫の卵)は取れる.しかし,細菌,トリハロメタン,ヒ素やマンガン等は通過するので,マンション等の赤サビ対策程度の効果しかない.セラミックス製のフィルターは,さらに細かい固形物を除去できる(生ビール等から酵母を除去するのに使用).活性炭は,トリハロメタンや塩素イオンなどの極性物質を吸着する.ヒ素,鉛等の有害金属は取れないと考えるべき(中性の水酸化物?).活性炭の吸着能には寿命があり,使いすぎると吸着していた有害物が逆に脱離してくる危険がある.さらに,活性炭は塩素を吸着するので,浄水器の中に溜まり水があると,そこで大量の細菌が繁殖する危険がある.その他,麦飯石,ゼオライト,イオン交換樹脂等の吸着剤を使用した浄水器もある.浄水器を朝一番に使うときは,使用上の注意にしたがって,最初に出てくる水を飲料水には使用しない.

6.浄水器を通した水道水は美味しいか
 純粋な水は無味無臭であり,美味しいと感じる要因として,温度が最も重要である.活性炭等の吸着剤を使用していて,塩素や異臭分子を除去できる浄水器では,嫌な臭いを減らすことが可能である.これに通して冷蔵庫で冷やすと,かなり美味しい水が飲める可能性がある.しかし,中空糸だけの浄水器では味が良くなる可能性が低い.

7.浄水器の種類と機能水
 還元水とは,酸化還元電位がマイナスの水である.還元水には活性水素が入っていて(?),これを飲むと体内が還元的になって(?),活性酸素を消すから健康に良く(?),ガンを予防する(?)等と宣伝されている.活性水素とは原子状の水素と思われる.原子状の水素は電極や触媒等の金属表面に存在し,寿命が非常に短い(μs以下)と言われている.これが水中に長時間存在できるか,さらに容器の内壁等で反応しないか,非常に疑問である.仮に,活性水素が入っていても極微量であり,それによって電位がマイナスになることは考えられない.マイナスだとしたら,何らかの還元性不純物の効果か,あるいは何らかの還元剤を添加している可能性もある.水道水の酸化還元電位がプラスなのは,殺菌のために塩素が入っているからである.塩素が活性酸素を出して菌を殺すのであるから,感染症の対策面から言えば,電位がプラスである(塩素が残っている)ほうが安全である.オゾンや紫外線でも水を殺菌できるが,これらの殺菌力は持続しないので,浄水場で殺菌した後に混入する細菌に対しては無力である.したがって,水道水には少量の残留塩素が不可欠である.還元水と同様なものに,アルカリイオン水がある.アルカリイオン水とは,何か電解質(酢酸カルシウム,乳酸カルシウム等)を添加して水が電気を通すようにしてから,(部分的に)電気分解した電解水である.このとき陽極側の酸性水と陰極側のアルカリイオン水が混ざらないように,隔膜を使用している.
 磁気水は,水道管を磁石で挟んで作る.水は常磁性体であり,磁気の影響を受けないので,水に対する効果は期待できない.鉄粉や鉄サビを除去することは可能であろう.その他,逆浸透膜で作る真水に近い水があるが,体に良いかどうかは不明である(上記の3を参照).


8.ダイオキシン
 ダイオキシンは大昔から存在しており,1970年頃に大量に放出されたらしい(含むPCB).純粋なポリ塩化ビニルだけを燃やしてもできないが,普通の塩ビには可塑剤や安定剤が入っていて,これを燃やすと大量にできるらしい.家庭用のゴミのポリエチレンを不完全燃焼させるとベンゼンができる.トレー等に使用されるポリスチレンはもともとベンゼン環を含んでいる.これらが不完全燃焼して,ベンゼン環ができ,そこに塩ビからの塩化水素が加わると,ダイオキシンが簡単にできるらしい.ダイオキシンは天然物であり,山火事など木がくすぶる様な状態で大量にできるらしい.→プラスチックが存在する以前から存在していた.ダイオキシンは,昔の塩素系農薬にも不純物として含まれていた.

9.シックハウス症候群
 シックハウス症候群の原因物質の順番は,ホルムアルデヒド,防蟻剤,トルエン,その他の有機性物質である.ホルムアルデヒドは合板の接着剤に含まれていて,かなり高濃度で新築の家にあるらしい.人間が臭気を感じる濃度は200〜300ppb(ppb=10億分の1)だが,80ppbを超すとシックハウス症候群になる危険がある.ガスを燃やすだけで30ppb程度になり,どんな対策をとっても50ppb以下にすることは困難で,換気が問題である.最近は,代替薬品が使われるようになった.防蟻剤はシロアリ対策用であり,以前は有機リン系薬剤が使用された.

参考文献
『環境と健康−誤解・常識・非常識−』安井至,丸善(2002)
『続・環境と健康−誤解・常識・非常識−』安井至,丸善(2003)